種はその中に、発芽するためのいのちの素が蓄えられています。
種は土に納まり、種の中の栄養だけで発芽し、そして太陽の光を浴びることができるようになると光合成をしながら根を張り、土の中の水と栄養が十分であれば、やがて本格的に成長できるようになり、本葉が伸びはじめます。
人間のはじまりの卵子も同じ、細胞分裂をするための必要なエネルギ―は卵の中に備わっています。
卵子は受精卵となってから、卵の中の栄養分を使い細胞分裂を繰り返し、少しずつ移動し、やがて子宮のベッドへ定着します。
定着すると、胎盤という土壌が作られはじめ、卵子はみずから根(血管)を伸ばし、お母さんの子宮から出る栄養を受けとりはじめます。
いのちのはじまりは、どれも同じ。
最初の最初から、いのちは生きるために、どん欲に本能のままに、食べることをはじめている。
死ぬそのときまで続く、神秘的な本能です。
中国医学では、生まれ前にお母さんからもらうエネルギーを先天の精といい、生まれてから口にするエネルギーは後天の精といいます。
生まれる前はお母さんが食べたもので、赤ちゃんは100%体が作られ、生まれてからは自分の口に入れたもので体が100%作られることになります。
そして気づかないときの話ですが、生まれるまでのお母さんのお腹の中やお母さんの生活がどんな環境かということは、お母さんの心の状態と一致し、その影響を赤ちゃんは受けています。
生まれてからは、どんな環境で、どんな食材で、どんな食事で、どんな言葉を交わし、どんな気持ちを味わいながら食べるかということは、食を通して、体はもとより、心をも形成していきます。
毎日くりかえされる、ものすごくあたり前の「食べる」ということは、私たちの土台となる、心も体も、作り続けているのです。
自然環境は実に多様性に富んでいます。
そして自然環境と同じくして人間も、たくさんの要素とはたらきを奇跡的なバランスで生きる、多様性に富んだ環境を備えた生き物です。
一日何品目とか、何キロカロリーとか、ミネラルが、ビタミンが...など、いろいろなことを指標にした栄養学という学問もありますが、健康的な暮らしの中では、いろいろな食材をいろいろな方法で食べることで、偏りのない多様性に富んだエネルギーを取り入れ、自然にバランスよく体の中の環境を整えていくことができると思っています。
人間が考えうるバランスというものはやはりあくまでも人工的で、生き物としての本能、感覚、感性などを日々研ぎ澄ませていると、人は自分で自分のいのちを豊かに育んでいくことを、自然にできると私は感じます。
日本は四季があり、水が豊富で緑も豊かな恵みの多い国です。
季節に応じ、気温の変化、水量の変化、肥沃な大地、乾燥地帯…違った環境が育む違った食物は、常に健やかな暮らしのエネルギーの源となり、時に食が体を治す薬にもなり、上手に豊かに食べていく文化を生み出し、心も体も満たされる素晴らしい暮らしを作ってきました。
人間は自然環境と同調しています。
その土地の環境に適応し、季節に順応して暮らしています。
自然環境と影響しあい、共生共存しながら地球という星に暮らしています。
この土地があることに、季節が巡ることに、いつも感謝する気持ちを持ち合わせていたいと思っています。
健康な食事や食生活を意識して送ることはある意味とても重要なことです。
なぜなら、食事は生きることと直結していますし、人生を彩っていく、とても大切な行いだからです。
そして、心と体の健やかさに、もっとも影響する大切な行いだからです。
でも私は、娘たちの皮膚疾患とつきあって暮らしてきた中で、食物の成分や機能に振り回され、食べることを楽しむどころかストレスに感じながら過ごしてきた経験を持っています。
そんな中で食のルールをゆるめに設定し、心の喜びや楽しみを食事の中に取り入れることで、「病気」や「不調」を”厄介な邪魔者”と見ていた自分に気づきました。
どんな厄介な症状だって、大切な娘の一部であるわけで、つまりそれは、「とても愛おしいもの」なんだということに気づいたとき
”暮らしの中の行いをひとつひとつ楽しみ大切に扱うことを優先しよう”
そう思うようになってから、心豊かで心地よい毎日が広がるようになりました。